こんにちは、金成コーデックスです。
私は東北の日照時間がさほど長くない地域でコーデックス栽培をしているので、一年間のうちのかなりの時間をLEDに頼っています。
LED栽培しているのは、主にパキポディウム、ドルステニア、アガベ、チレコドン、ユーフォルビアなどのコーデックスがメインで、以前以下の記事においてCOB式というLEDライトで生育が極端に促進されることをまとめました。
その後も同じような環境で育てているうちに、パキポディウムのいくつかの品種でとある変化が一貫して見られるようになり、「強光で長時間LED栽培することによる影響なのではないか?」と思うようになりました。
本記事は、あくまでも私の仮説であって化学的にLED栽培による植物体内での変化を測定したものではないので、1つの考察として読み流していただければと思います。
Contents
パキポディウムはLED栽培によって「側芽」が形成されやすい?
約2年強に渡って強光でのLED栽培を行ってきましたが、パキポディウムにおいて明らかに側芽が出ている個体が多いことに気が付きました。
※我が家のP.cactipes。側芽が異様に多い個体
この現象はclubhouseで植物ブロガーのお二人(ゆるぷさん&りとまんさん)とお話しさせていただいた時にも同じ現象を実感されていたこと、TwitterなどのSNSでもパキポディウムを実生栽培されている方から同様の意見を何度かいただいたことなどからも、我が家だけの問題ではなさそうです。
また、ユーフォルビアやアガベではその傾向は特に感じていませんが、一部のドルステニア(特にドルステニアホルウッディ)で早期の側芽形成がされているように感じます。
パキポディウムの側芽形成促進は植物ホルモンの影響かも?
パキポディウムがLED栽培によって側芽形成促進されやすいのは、当初は「成長点部分が強い光によってつぶれたり、葉焼けの延長線上のように成長点が光や熱によって細胞に何らかのダメージがあって起きているもの」だと思っていました。
頂芽がつぶれたから、側芽で成長しようとしている
そんな認識でいたんですが、ここ数日でちょっとその考え方が変わってきました。
「これってもしかして植物体内で植物ホルモンのバランスが崩れてるんじゃないか?」
っていうのが気になり始めました。
仮説①:光が強いので植物体がたくさん光合成をしようとサイトカイニンを活性させてる?
植物には「サイトカイニン」という細胞分裂を促進する作用のある植物ホルモンがあることが知られていますが、このサイトカイニンは細胞分裂の促進の他に「光合成の活性化」「シュートの形成」「頂芽優勢を解除して側芽の成長を促進する」という作用を持ち合わせています。
きっと、何らかの原因でサイトカイニンが増えてるんじゃないか?ってのが仮説です。
そしてそれに影響を与えている原因が「強光LEDの長時間照射」なのではないか。
サイトカイニンについてはよくわかっていないことも多いうえに、私のような素人園芸家が検証するすべもないので、あくまで考察というレベルに留めますが、どうも「LEDの光や熱によるダメージ説」よりも「植物ホルモン(サイトカイニン)のバランスが崩れることによって、頂芽優勢→側芽成長促進に切り替わっている」という説の方が説得力があるように感じ始めました。
そして、その変化はパキポディウムで顕著にみられていて、品種によってはただ側芽が沢山出るだけではなく、成長を阻害して枯らしてしまう可能性があることも想定されます。
我が家では数あるパキポディウムの中でも、この側芽が異常に形成させるのはカクチペスで多く、最終的には枯れてしまう個体がいくつも出てきています。また、エブレネウムやレウコキサンツムなどの扁平に生長する品種ではその側芽異常発生やその後の枯死はほとんど見られないので、同じパキポディウムの中でも差があるように感じています。
※レウコキサンツムはほぼ影響なし。
最近,環境応答シグナルとしてのサイトカイニンの機
能も明らかになってきた.これまでにサイトカイニン情
報伝達が不能,あるいは内在性サイトカイニン量を減少
させた形質転換植物体では,ストレス応答性植物ホルモ
ンであるアブシジン酸量が増加し,低温・乾燥・塩スト
レスに対して耐性になることが観察された.反対に,合
成あるいは分解酵素を調節してサイトカイニン生産量を
増加させると,低温・乾燥・塩ストレスに対して感受性
になることが観察された.つまり,サイトカイニンは
低温・乾燥・塩ストレス条件下で植物の成長を悪くさせ
ることが新たに示されたのである.サイトカイニンは細胞分裂や光合成を活発にして植物
成長を促進するが,それに伴い多くのエネルギーが消費
される.このことが,ストレス条件下ではマイナスに働
くと解釈でき,サイトカイニンは植物の生育環境により
プラス・マイナス両面を持ち合わせているといえる.– バイオミディア「植物ホルモン”サイトカイニン”の+と−」今村 綾
上に引用した生物工学の論文にもあるように、もし仮にサイトカイニンがLED栽培環境下で沢山作られて、光合成の促進をするとともに成長点を頂芽から側芽に移行しているのであれば、そのマイナスの側面として低温や乾燥のストレス下では成長を鈍らせる可能性があるようです。
我が家のカクチペスも冬季の休眠から起きずにそのまま枯死してしまったのが多かったので、もしかしたらこの論文にあるように植物体内のエネルギーが沢山消費されてしまった状態だったり、低温ストレスなどで成長が鈍化してしまったことが原因かもしれません。
仮説②:LEDの光によって成長点がつぶれて、植物体内のサイトカイニンが増えた
情報を漁ってるうちに、成長点がつぶれることでもやはりサイトカイニンが増える方向に働くことが分かりました。
これは胴切りなどで成長点を切り落とせば側芽がどんどん出てくるのを経験している方も多いと思うので言わずもがなですが、これは頂芽で合成されるオーキシンという植物ホルモンが茎の部分のサイトカイニン合成を抑制しているからと考えられているようです。
だから頂芽を切り落とす(or 意思に反してつぶれる)と、そのオーキシンによる側芽抑制が解除されるので脇芽が増える、、とのこと。
結局、LEDの熱か強光が原因で成長点にダメージを与えていても、植物体内のサイトカイニンが増えて側芽形成促進になるようなのです。
考察
長時間の強光LED照射は、直接的に頂芽の成長点にダメージを与えているか、はたまた植物体内で何かしらの変化が起きて植物ホルモンのバランスが崩れ、結果としてサイトカイニンが増えることにより、側芽の形成が促進されている。
また、この状態になっている植物に考えられる変化として、「サイトカイニンが増えていることで寒さや乾燥のストレスに弱くなっているので、冬季休眠時から目覚めないなどの可能性がある」点が挙げられます。
我が家のように複数側芽が形成されたカクチペスが今期の休眠あけに多数枯れてしまったのは、もしかしたらこれが原因だったのかもしれません。
この情報をもとにするならば、胴切りや頂芽(成長点)の剪定をした株は、側芽を出そうとサイトカイニンが増えるので、冬の間の寒さや乾燥に(一時的に)弱くなっていることも考えられます。
そのような株を管理する際には、寒さや乾燥などのストレスを極力減らすようにした方が良いかもしれませんね。
おわりに
本記事の内容は、あくまで私の体験といくつかピックアップした論文の内容から推察した仮説であるので、なんらLED栽培の弊害を確定するものではありません。
アガベやそのほかの種では同じような現象は起きず(側芽が形成されにくい植物だからかも?)、使っているLEDライトのパワーや照射距離、照射時間によっても影響の出具合が違うと思いますので、一概にすべてのLED栽培においてこうなると言えるものでもありません。
ただ、植物をすごく大きくしたいからといって「より強い光を、より近くで、できるだけ長く照射すればいい」と考えている方がおられましたら、もしかしたらその光の当て方は植物体内で何らかの変化をもたらすかもしれないことを念頭に置いた方が良いかもしれません。
参考:
東京大学 農学生命科学研究科 プレスリリース https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/kyozuka.html
日本植物整理学会:植物Q&A https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3370
名古屋大学理化学研究所:https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20170725_agr_1.pdf